暗闇から、突然光の下に晒される。それが、柔らかな月の光だと分かった時、身体中に激痛が走った。身体を動かそうとすると、何千本もの針が打ち込まれたような痛みが襲ってくる。
 息を吐き出し、息を吸う。
 ツンと鼻につく生臭い血の匂い。何かが焦げたような匂いもする。
「あぁ……そうか……」
 何で? と思うより早く、あたりに満ちる血の匂いと物が焦げる匂いの意味を理解した。
「みんな……」
 ゆっくりと首を動かしてみる。
 右に向けば、向かいのおばさんが目を見開き、口を開け、息絶えている。首筋がばっくりと裂けていて、その顔は引きつっていた。
 左を向けば、父親がうつ伏せに転がっていた。逞しかったその背中には、何本もの矢が刺さっている。
 今朝まで、みんな笑っていたのに。
 恐る恐る腕を動かしてみた。
 痛みはない。
 動く腕で身体を支え、起き上がる。さきほどの痛みが嘘のように、身体はこちらの思い通りに動いた。
「…………」
 里の目抜き通りは、死体の道になっていた。
 腕のないもの、足のないもの、胴が真っ二つにされているものもある。
 両側に軒を連ねる家々は、焼き打ちにあっていて、無残な姿を晒している。
 あぁ、この里は殺されたのだ。
 人も家も、ここに根付いた魂さえも、ヒトの欲に呑まれて消えた。
 黒く焼け焦げた家。血を吸ってどす黒く染まった地面。墨よりもなお黒い空。
 (くろ)で満たされたこの世界の中で、空に浮かぶ満月だけに色があった。
 このまま上へ昇っていけたなら、あの月を抜けて別の世界へ行ける。
 ────そんな気がした。






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